石窯でパンを焼くために必要な知識について勉強しましょう。

■火とは?

 木材や紙などの有機物には炭素が多く含まれていて、加熱すると可燃ガスになり気化します。
可燃ガスは酸素と結びついて燃焼し、熱と光を発します。
物質と酸素が結びつくことを酸化(*1)と言い、この時の熱と光が”火・炎”です。
特に気体の燃焼現象の激しいものは、炎・火炎と呼ばれます。
 火は質量を持った物質ではなく、可燃性の物質と酸素が反応して熱と光を出している“現象”です。木材の燃焼では、熱によって木材を構成する物質の一部が分解して可燃性の気体となりそれが燃焼し炎(分解燃焼)となります。

(*1)
酸化(さんか)とは、対象とする物質が電子を失う化学反応です。具体的には、物質に酸素が化合する反応、あるいは、物質が水素を奪われる反応などである。酸化と還元反応は必ず対になっており、電子の移動元は「酸化した」となり、移動先は「還元した」ことになります。


■火の3要素

 火という現象に必要なものは、以下の3つです。

(1)酸化反応を促す“熱” (火を起こす時の新聞紙など)
(2)酸素と結びつく“可燃物”(薪)
(3)酸化反応をおこす“酸素” (空気)

 火が燃えている間は、「酸化反応する⇒熱の発生⇒次の酸化反応」を繰返しています。
可燃物が無くなるか、酸素が不足するか、熱を奪われると酸化の連鎖が途絶えてしまうため火は勢いが衰えます。勢いよく薪を燃焼させるには、酸化のスピードを維持することが重要です。


■煙とは?

 木材や紙を加熱して出てきた可燃ガスは酸素と結びついて酸化します。この時に酸素と結びつかずに気体のまま離れてゆく可燃ガスの中には冷えると液体や固体の小さな粒になってしまうものがあります。これが煙です。煤(すす)は、可燃ガスの中でできた粒子が冷やされて出来た煙で、主に炭素によって構成されています。


■薪の燃焼のしくみ

 今までの説明で、燃焼の仕組みがわかったと思います。このことから、薪の燃焼には新鮮な酸素(空気)が必要で、燃焼温度を下げてしまう木材の水分が大敵という事が導き出されます。
 酸素の供給源は空気で、空気には約20%の酸素が含まれています。 酸素が不足すると不完全燃焼を引き起こし、大量の煙を出し火は勢いが衰えます。
 また、薪に含まれている水分が燃焼のスピードを左右します。水分の蒸発に酸化に必要な熱が費やされてしまうのです。

 乾燥した薪を用い、石窯の蓋を全開にして絶えず空気を供給することが重要なのです。

 木の種類によって異なりますが、伐採直後の原木の含水率は40%以上です。生木を乾燥させていくと含水率30%前後(繊維飽和点)で収縮が始まり木の形が変形し始めます。
生木の場合は、割って半年から一年くらい自然乾燥させます。
そうすると、薪は外気の平衡含水率である12〜16%程度の含水率になります。
薪として最適な含水率以上だと薪自体の水分を蒸発させるために熱が費され燃焼スピードが低下します。


■薪の燃焼と温度

 石窯の中の薪がどのようにして燃えていくかを説明します。

90℃以上 薪の表面から水分が蒸発します。
260℃以上 タールを含んだ蒸気が発生します。可燃ガスが発生します。可燃ガスとして燃え尽きずにいると石窯や煙筒内に付着します。
600℃以上 温度が上昇すると、発生した可燃ガスが発火し炎を出して燃え上がります。 火入れ前に石窯の内側の壁に真っ黒に付着して煤が、白く変化しているということは、温度が600℃以上になり燃え尽きた証なのです。
700〜800℃ 勢いよくオレンジ色の光を放って炎を上げ”焚き火”状態で燃えている時が700〜800℃です。 火炎の青い部分は可燃ガスと酸素が反応しており、赤い部分は、酸素と反応する前の熱せられた可燃ガスから遊離した炭素の集合です。 炭素を多く含む物質ほど赤く光ります。赤い部分は、遊離した炭素が輝いているので赤く見えます。実は赤い部分の外側に青い炎があるのですが、赤い光が明る過ぎてよく見えないのです。この赤い部分は熱いうちに酸素が十分あれば酸素と反応しますが、そうでないと燃え残って”煤(すす)”になります。
1000℃ 更に酸素を送りこむと、オレンジ色が減り青白い光を放って”おき火”になって燃えます。炭の燃焼は、炭素が酸素と化合し二酸化炭素を生成する反応です。 化学反応式で表すと、次のようになります。
 C+O2→CO2
炭の炎は小さくても、酸素の供給が十分で赤熱状態の時は最大1000℃に達します。
酸素が不足すると不完全燃焼が起こり、炭素の微粒子(スス)が発生します。


 石窯の温度を上げるためには、”おき火”状態を早く作ってやることが重要です。

 ちなみに鉄の融点は、1,535℃なので前面の鉄製の蓋は解けません。


■身近な火の温度

 もう一つオマケに私達の身近にある火の温度は以下のようになります。
 薪の温度が、思った以上に低い事がわかると思います。

ロウソク 黄色の中心部分が600℃、外側に薄い青色部分が1400℃くらいです。
ガス 都市ガスは、1700℃〜1900℃で、LPGは1900℃です。
ガスバーナーに使うアセチレンガスは、空気中で2300℃、酸素で燃やすと3000℃です。
たばこの火 強く吸った時の最高温度は850℃です。
練炭 白い炎は1000〜1200℃で、赤い炎は700℃です。
木炭 赤熱状態なら1000℃近くです。



■石窯への薪入れ

 ◆薪の準備

  充分乾燥させるために余熱が残っている石窯に明日使う薪を入れておきカラカラの状態にしておきます。完全に乾燥した薪はマッチ1本でも燃えます。


 ◆薪の選別

  組上げる薪を選別します。
  薪も太さによって使う場所が異なります。正しい場所にセッティングすれば火を難なく点けられます。

細割り薪 非常に発火性が良いが、薪が細いため火の勢いが直ぐに衰える。
小割り薪 比較的燃え易いが火の勢いが長続きせず、おき火状態になる。
最初に燃やすのに適しているため下の方に組む。
中割り薪 少し太めの薪は、燃え難いが燃え始まると強い燃焼が続く。
太割り薪 太めの薪は、燃え難いが燃焼がゆっくり長く続く。



 ◆薪組みの型

  組み方にはいろいろな種類がありますが、1番一般的なのは#型に組み上げる方法です。
  その理由は、2つあります。
  1.薪の燃焼のしくみでも説明したように酸素が充分供給され易い組み方が#型である。
  2.火を点けた後の薪を石窯の奥へ移動させ易い組み方が#型である。


 ◆薪の組み上げ

  @1段目に太割り薪を2本縦方向に置きます。1番下の薪を縦方向に置かないと組上げた薪を窯の奥へ押し込めなくなります。この薪にはもう一つ大事な役割があります。充分な酸素の取り込み口になるのです。
  A2段目と3段目には小割り薪を3本使い組みます。
  B4段目以降は中割り薪を2本づつ組みます。
  C薪を組み終えたら、#型の中心に新聞紙を詰め込みます。
   その上に細割り薪などの着火性の良い物を入れておけば完璧です。


 ◆薪への着火

  @1番下の新聞紙にマッチなどで着火すると、「細割り薪⇒小割り薪⇒中割り薪」へと火が燃え上がり薪全体にまわります。
  A燃え上がる#型の薪を石窯の奥へ押込みます。
   石窯の大きさにもよりますが、床いっぱいになるまで「薪組み⇒着火⇒石窯の奥へ押込む」を繰返します。


 ◆薪の補給

  真っ赤な"おき火"が火床全体に敷き詰められるまで薪の補給を続けます。薪は"おき火"が火床に十分残っている状態の間に補給すると直ぐに炎を上がります。"おき火"の状態となったほうが高温になるため、この状態を早く作ることが重要です。
  石窯の入口の扉と煙突のダンパーを開け充分な酸素を送り続け炎を安定させます。
  真っ赤な“おき火”が火床全体に敷き詰められるまで薪の補給を続けます。
  石窯の温度を500℃まで上昇させます。石窯内の壁が真っ白になれば温度が充分上がった目印です。


■薪として適した木の種類

 スギ、ヒノキなどの針葉樹は、よく燃えるのですが燃焼時間が短く排気に分泌物が多く含まれるので嫌われます。
 石窯の大きさや壁の厚さにもよりますが、一般的に石窯の温度を上げるには1〜3時間位の時間がかかります。このことから考えれば、薪は十分に乾燥し煤が少なくゆっくり長い時間燃えていることが必要です。従って、薪としては火持ちもよく熱量も高く煤の発生が少ないナラ・カシ・クヌギなどの堅くて比重の大きい広葉樹が最適です。

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